映画「蟲師」を観てきました

ぶっちゃけ、内容は全く期待していませんでした。
「どうせ原作の雰囲気の欠片もないような映画になっているだろう」という気構えでした。
原作を知っている映画を観に行く時の鉄則ですね。
まず、結論から申し上げますと
1800円払う価値はない
ですね。
これに1800円かけるくらいなら、マンガ喫茶で原作を全巻読んで下さい。そして、レンタル屋でアニメの蟲師を全巻借りて観て下さい。
もしそれでお気に召したのであれば原作を全巻買い揃えて頂きたい!
そして、原作知らずに映画を観た人がいましたら、映画を観ただけでこれが蟲師という作品だなんて思わないで頂きたい!!

では、原作ファンとしてではなく、純粋に一つの映画としてみた時の感想を先に述べます。
原作のエピソードはどれも短い話ばかりで、2時間という長丁場で描くには向かない物ばかりです。
そう言う意味では、原作にある4つの話を盛り込むというやり方は正しい選択だったと思います。
ただし、2時間という尺の中で起承転結という盛り上がりを付けようとしたためか、一部の話は無理矢理引き延ばされて無理矢理見せ場を作られてしまっているので、話がよくわからない事になってしまっています。
これならば、4つの話をそれぞれ独立した話として別々に描いた方が良かったのではないかと。
雄大な自然をじっくり見せたいという意図はあるのでしょうが、そういう映像を魅せる描写は控えめにして、ストーリーのテンポを良くした方が観やすい作品になったかと。
ただでさえストーリー進行がゆったりとしている作品ですから(そこが作品の良さではあります)、話をテンポ良く進めないとだれてしまいます。
それに、映像を魅せている時間があるのならば、ストーリーの繋がりが唐突な部分をちゃんと描くとか、原作を読んでいない人にはわかりにくいと思われる部分を説明したりと、ストーリーをわかりやすくための描写に時間を割いた方がよっぽど有意義だったかと。
そして一番酷かったのがラストです。原作のエピソードに無駄な後日談を付けてごちゃごちゃにした挙げ句、原作ファンですら理解出来ない様な「よくわからない終わり方」のまま終了……。
無論、あえて全てを説明しない事で余韻を持たせるといった手法があると言う事はわかりますが、この作品の終わり方は「ただ単に良くわからないだけ」で、気持ち悪い終わり方をします。

では、原作ファンとしてのツッコミどころを色々。
意外にも、原作を大事にしようと言う意図は結構伝わってきたのですが、そこまで原作を大事にするのであれば、何故一番大事な雰囲気を置き去りにしてしまったのかが謎です。
オダギリジョーの演じるギンコ
暗い……
加えて、作品全体も
暗い……
原作に似せているのに方向性が180度違います。
の描写がシーンによってはやたら「虫」っぽくて気持ち悪かったり、ホラーじみた演出が過ぎていたりで、これまた原作とは全く別の方向性になっています。
淡幽(たんゆう)が巻物から抜け出した文字を菜箸でつまんで新たな巻物に写していくシーン。映画でもそこは描かれていたのですが、菜箸と言いつつも持ち出してきたのは何故か錫杖……。
しかも、錫杖で地面を叩いてなにやら儀式めいた行動を……。
そして、錫杖には馬鹿でかい菜箸が収納されているという謎ギミックまで……。
蟲師の世界観に置いて、そういう儀式めいた物や、虚仮威しのギミックは似つかわしくないのですが……。


折角、俺が一番好きな漫画である蟲師のネタを取り上げておいて、「映画は外れでした」だけでは悔しいので、原作及びアニメでお勧めの話を。
俺が一番好きなのは「筆の海」という話。
数々の蟲師から聞いた「蟲を殺した話」を文字にして書く事で、自らの体を蝕む蟲を封じて来た狩房家。
こういう変わった蟲封じを代々行っているために、狩房家には蟲にまつわる様々な逸話が書き記された書物が蔵一杯にある。
その書物を読みたいが故に、多くの蟲師が蟲にまつわる話を手土産に狩房家に集まってくる。
ギンコもそういう蟲師の一人だった訳ですが、蟲を封じる事に疲れ切っていた狩房淡幽に対して、蟲を殺さない話をたくさん聞かせます。
元よりギンコは蟲を闇雲に退治する事はない。そういうギンコのスタンスこそが蟲師という作品を面白くしている要因でもあります。
ギンコが話す様な蟲を殺さない話などは蟲封じの役に立たないのですが、淡幽はそんな話に、そしてギンコの在り方に惹かれるのです。
が……
その辺の経緯の描かれ方が映画ではかなりおざなりに……。
しかも、何故かギンコ淡幽を好きだと言う事を明言し、恋愛的な話を無理矢理作り上げてますし……。
(原作では、淡幽は2巻に収録されたこの話限りの登場ですので、8巻まで進んだ現在も別に恋愛方向には発展していません)
で、この話一番の見せ場は封が解けて部屋一杯に溢れ出した文字の群を、菜箸でつまみ上げて新しい紙に写していくシーンです。
文字を書くという蟲封じだけでなく、溢れた文字をつまんで紙に戻すという独創的な発想は、初めて漫画で読んだ時に大変感心したものです。
このシーンは映画でも頑張って見応えのある映像を作っていましたが、俺はやはりアニメの方を強く推したい。
こういう特殊な描写は漫画よりも映像で映える物ですので、アニメを未見の原作ファンがいれば、この話は是非アニメで観る事をお勧めしたい。
無論、原作すら知らなかった人にもお勧めしたい話でもあります。
いきなりこの話を観ると、主人公はギンコではなく淡幽だと誤解しそうではありますが……。
ギンコが主人公っぽくない話なんて珍しくないんですけど(笑)。
まあ、そういう主人公っぽくない飄々とした所もギンコの魅力ですしね。