矢野リプレイ、ダブル刊行!!

という訳で『アルシャードガイア・リプレイ明日へのプロファイル』に続き『ダブルクロス・リプレイ・オリジン 未来の絆』も数日遅れで入手しました。
まずはガイアの方の話から。


アルシャードガイア・リプレイ明日へのプロファイル』
アルシャードガイアのルールブックと同時発売で、作品の世界観などの紹介を兼ねていますが、データの使い方を詳しく解説している訳ではないので「解説書」という側面はありません。
ただ、ルールの使い方なんかはルールを熟読して一度セッションを行えば理解できることなので、世界観やセッションの様子を紹介する「読み物」としてのリプレイの方がよっぽど参考にする事が多いと思います。
第一話は新米クエスターが力をつけていく過程を描いていますし、シナリオも基本的な退治物に近い作りなので、まさにアルシャードガイアの入門編的な内容ですが、第二話ではストーリーが途端に壮大になり、キャンペーンのラストに使えそうな敵や世界の根幹部分の設定に絡む描写が出てきたりします。第一話でようやくクエスターになれた新米に対して、第二話では「なぜクエスターを続けているのか?」という疑問を投げかけ、その答えを見つけさせることで、新米が一人前になっていく過程を描いています。
この一冊で第一話と最終話という形が出来上がっていますから、アルシャードガイアのキャンペーンを考える際のスタンダードなスタイルとして非常に参考になります。

さて、読み物としてのこのリプレイの見所。インターネットラジオふぃあ通」でも散々言われていた事ではありますが……
お父さん
これに尽きるんじゃないかと(笑)。
ヒロインの一人『宮沢茉莉(みやざわまつり)』の父親で、昔は優秀なクエスターとして活躍していたがとある理由で現役から離れ、娘にシャードと魔剣を託したという話なので、普通に考えたらおかしな方向に転ぶキャラではないはずなんですが、茉莉がシャードの色を決定する時に『錆色』とでてしまった事が全ての始まり……
「お父さん、これ錆びてる!(笑)」
しかも、もう一人のヒロイン『西園寺恵』のシャードは特別な物という設定で、プレイヤーの思いつきで『中に地球が浮かんでいる綺麗なシャード』という事になってしまったので、茉莉のシャードが『錆色』である事がより強調されてしまう事に……
そして、お父さんのキャラが固まってくると、他のプレイヤーも面白がってお父さんを演じだしたもんだからお父さんはどんどん面白い方に……
PC達もお父さんに負けない個性のある面子で、それぞれの立ち位置がはっきりして非常にバランスがよい印象を受けました。
恵はおっとりしたお嬢様の上にクエスターとしては新米、他はPCなのに『杖』だったり『学校の怪談』だったりして、まともに動ける茉莉一人が色々背負い込むという構図になっており、茉莉が目立つからお父さんも目立つ。まあ、結局お父さんは避けられないのです。この話(笑)。
茉莉を演じたしのとうこさんは、オリジンの時とは全く違うアクティブなヒロインで面白かったですね。
しのさんはダブクロのイラストを描いているからオリジンに出ていたのはわかるとして、なんでアルシャードガイアの方にも出ているんだろう?と不思議に思っていたのですが、実際にリプレイを読んで納得しました。
F.E.A.R.のリプレイに参加するプレイヤーは個性的な人が多いので、しのさんは周りに紛れてしまい際立った個性は出にくいですが、しのさんに注目してみてみると非常に「良いプレイヤー」だと気付かされますね。
西園寺恵を演じた桜木舞さん(鈴吹太郎さんが講師を務めるDEAの学生さん。はてなのキーワードで引っかかる人とは無関係です。念のため)はTRPG歴が浅いとは思えないほど、しっかりとキャラ立てが出来ていて驚きました。
おっとりしたお嬢様という「何も出来ません」という雰囲気のキャラを演じつつも、他のプレイヤーとの掛け合いもしっかり出来ていて、特に鈴吹太郎さん演じる杖『クアドラ』との掛け合いが見事。
おっとりしたお嬢様と偉そうな杖というコンビはいい感じにすれ違っていて面白かったです。
もちろん、このコンビの関係は鈴吹太郎さんのプレイヤーとしての力量によるところが大きいです。
「残念だが、俺には人間を導く機能はない。俺はただ使われるだけよ」などと恵に対して突っぱねた態度をとっているのに、大事なところではツボをおさえた良い台詞を残すんですよね。この辺の上手さはさすがですね。
藤武さん演ずる『ディーン・ランダム』は色んな意味ですごかったですね。
『鏡に映る吸血鬼』という学校の怪談。確かにダンピールというクラスはあるので、吸血鬼である事には問題ないのですが、学校の怪談を演じられる様な変則的なルールはアルシャードガイアには存在しません。
つまり、ほとんどの場面を「車のバックミラーに現れます」などという「データとしては存在しない演出」で乗り切っているのです。
慣れたプレイヤーがこういうプレイをすると、本当に面白いキャラクターとなりますね。
こういうプレイは、ともすれば「言い出した者勝ち」という自分勝手なプレイになってしまうので、相当センスのあるプレイヤーでなければ逆効果になってしまうんですよね……真似したいけど俺には無理っス……

アルシャードガイア リプレイ 明日へのプロファイル (ファミ通文庫)

アルシャードガイア リプレイ 明日へのプロファイル (ファミ通文庫)

ダブルクロス・リプレイ・オリジン 未来の絆』
オリジンシリーズもついに最終巻です。
最終巻という事で、レギュラーだった主人公二人に加えて、各巻に出演していたキャラクターから一人ずつ選ばれて再登場しています。
一巻からは田中天さん演ずる『群墨応理』。
二巻からはかわたなさん演ずる『蓮見イサム』。
三巻からは安達洋介さん演ずる『辰巳狛江』。
矢野さんがこの三人が出演者である事を富士見書房の編集さんに伝えたところ、
「そんなぼんくらーずで大丈夫?」
と聞かれたらしいです(笑)。
冨士見の編集さんからよくぼんくらーずなんて言葉が出てきましたね。あの三人をこうも的確に言い表す言葉があったとは……
ただ、矢野さんがぼんくらーずを招集したのはただのネタではありません。というか、この三人でなければオリジンは最終巻たり得ないです。
いや、矢野さんのシナリオ作りの上手さに脱帽しました。
ぼんくらーずもそうですが、それ以外にも最終巻ならではの仕掛けが満載。オリジンシリーズはかなり好きだったので、今回で終わってしまう事が非常に残念だったのですが、このラストを見せられたらもう満足です。
色々と語りたい事は多いですが、まだ読んでいない人がいれば楽しみを奪ってしまう事になるので詳しい事には触れません。オリジンシリーズを面白いと感じていた人なら、間違いなく満足出来る一冊です。
もし、一巻だけ読んで「それなりかな」と思って二巻以降読んでいない人がいれば、これを機に全巻読んでみる事をおすすめします。
笑い転げたリプレイとか、こんな格好いいプレイが出来るんだと感心したリプレイとか、泣きそうになるシーンがあるリプレイなど、読んだ後に「面白かったー」と思えたリプレイはたくさんありますが、しばらくの間読後の余韻に浸ったリプレイってのは初めてです。
すごい思い入れのある大作RPGをクリアした後みたいな感覚でした。
今回のサブタイトル『未来の絆』ってすごく良いですね。本文中でこの言葉が出た時はかなりぐっと来るものがありました。

オリジンは矢野さんのGMとしての上手さも当然として、プレイヤーの上手さも光りますね。
まずは主人公の『高崎隼人』を演じた大畑顕さん。負けプレイや三下プレイで有名な方ですが、今回は徹底して主人公してましたね。
何度か大畑さんが主人公のリプレイは見てきましたが、高崎隼人は別格ですね。
かわたなさんの演じる主人公主人公した感じとは違う、より人間っぽい主人公像は、オリジンシリーズの雰囲気とテーマにピッタリでした。
しのとうこさんの演じた『玉野椿』というキャラクターは、一巻の頃から高崎隼人と対比する位置づけのもう一人の主人公でしたが、巻が進むごとにキャラクターの雰囲気や位置づけが変わってきました。
玉野椿というキャラクターの芯は全くぶれずに、キャラクターの変化をしっかり演じ分けているしのさんはすごいです。
無駄に格好いいプレイとか、芝居がかったプレイをする人は今までのリプレイでもたくさんいましたが、こんなに細やかなプレイをする人は初めてかも知れません。
ぼんくらーずは随所で細かな笑いを挟んでくれましたが、期待したほどの大惨事はありませんでした(笑)。
でも、それぞれのキャラクターの良さもプレイヤーの上手さも出ていて、さすがに安定感がありますね。

そんな訳で、オリジンシリーズは今まで読んだ中で一番好きなリプレイになりました。
矢野俊策さんの次回作に期待ですね。売れ行きが良ければアルシャードガイア・リプレイの二巻が出るかも知れないと言っていたので、それを楽しみにしましょうか。
そういえば、オリジンの中で一つだけ気になる点があります。
ボス戦の戦闘バランスがかなり厳しい……
毎度毎度PCの浸食率がかなりとんでもない事になって、ボス戦後の自立判定もかなりかつかつになってます。
このバランスを俺の仲間内でやったら、絶対に死人とジャーム化の山……(笑)
しのさんもTRPG仲間に
「オリジン以降、君のGMは敵が容赦ない」
と言われたらしいので、オリジンでの厳しさの影響が出たのでしょう(笑)。