むー……?

遅ればせながら奈須きのこさんのDDDという小説を読みました。
ファウストに載っていた時に読んではいたのですが、その時点ではそれほど面白いという印象は受けませんでした。ただし、まだ詳しく語られていない部分が出てくればもう少し面白くなるのかなと淡い期待は持っていました。
しかし、実際に一冊の本にまとまった物(加筆修正や書き下ろしあり)を読んでみると、評価はむしろ落ちる一方。
まあ、確かに奈須さんの文章ではあるんですが、話も設定も全てが中途半端な印象を受けます。
いつもの様に、魔法や魔術、教会や協会といった独自の設定と概念のファンタジーをベースに構築した話であればまだよかったのですが、変に「鬱」「精神障害」「病院」「社会的弱者」なんていう現実味のありそうな言葉を並べる物だから、設定の「嘘くさい」部分が思いっきり浮いています。
さらに、虚構であれば「面白さ」と思える奈須きのこ流の「歪んだ人間の心理描写」も、「精神障害」という理由付け一つで「いくらなんでもこういう心理にはならんだろ」と興醒めしてしまいます。
もちろん、それはただの精神障害ではなく「悪魔憑き」と称される架空の物であるのですが、「精神障害」や「病院」というリアリティのある言葉のせいでおかしな雰囲気になってしまっています。
しかも、悪魔憑きを「病人」としているにも関わらず、話の中で悪魔憑きに対する対応は非人道的も甚だしい。
リアリティのない話なら、リアリティのない設定で塗り固めてしまった方が楽しめる話になったと思います。
全ての設定が明らかになっていないため、本当はもっと色々な設定を詰め込んでいるのかも知れませんが、表面に出てきている設定があまりに大雑把なため、深い設定部分には興味がそそられません。
あと、作品の雰囲気にまとまりがないというのも、読んでいて冷めてしまう原因になっていますね。
重々しい始まり方をし、様々な謎をはらんだまま終わった第1話に対して、書き下ろしされた話はジャンプ漫画ばりのバトルが展開されます。
肉体的な変異の方が大きくて、これのどこが精神障害なのかという悪魔憑き。人外の戦闘力を持った悪魔憑きと互角以上に渡り合う謎の多い女(一応警察関係者ではあるらしい)。この女、実は魔術師だったとかいう設定でもあるんでしょうかね?しかも住宅街なのに平気でショットガンぶっ放してます。どういう日本なんでしょう?
しかも、1話の重苦しい雰囲気はどこへやら、妹が悪魔憑きになって両親を殺したなんて話をへらへらと友人に語る主人公……
書き下ろしの話で、色々な物が台無しになっている気がします。
結局、この作品はどういう話を書きたかったんでしょうね?
もう一つ気になった事といえば、全文が一人称視点で書かれている事を利用して、今は誰の視点で書いているのかわからなくし読者を騙す手法を使いすぎです。
この手法を何度もやられると「そうきたかー!」という驚きよりも、「考えて読むのが馬鹿らしい」という思いが強くなります。

まだ話が始まったばかりではありますが、このシリーズを続けるのであれば、未発表の「魔法使いの夜」を書いて欲しいですね。